「……すまないローファル、何をしているか教えてもらっていいか」
 いかにも苦渋、といった表情でクレティアンは目の前に立つ男に問いただした。
 見て分かりませんか、と彼は言う。
 いや、分かってはいる。きちんと脳神経は情報を伝達しているし、それを処理している脳細胞にもなんら問題はない。要は、目の前の事態に耐えうる、あるいは対処しうるだけの精神力が足りないというだけの話だ。
 扉を開けて「とりっくおあとりーと」と言われてから数十秒経ったが、それだけ返すのが自分の限界だったようだ。
「今日はハロウィンでしょう?」
「そうだな」
「つまり菓子を寄越せと脅迫しても笑って許される日です」
「きょうはく…?」
「そのためには仮装しなければ話になりません」
「それでそれか?」
「はい、ピスコディーモンです」
 得たりとばかりに、騎士団長の右腕とされる有能なローファルはいつもの穏やかな笑みを浮かべた。けれど騎士団一の美形とされる男は、額に手を当てたまま微動だにしない。正しく言うと、動く気になれない。
 よくできているでしょうと、嬉しそうにヒゲ(?)を動かしてみせる男は顔が隠れているといえ、間違いなくローファルだ。
 …分かってしまった自分が悲しい。
「それでくれるんですか、くれないんですか」
 クレティアンは無言で、よく女性騎士から押し付けられる菓子包みを丸ごと渡した。
「取引成立ですね」
 頷くローファルに応える気はなれなかった。
 というのも、彼が動くたびに本物さながらにヒゲがうごめくのだ。勘弁してくれ。
「では、行きましょうか」
「なにっ!?」
「クレティアンもお菓子恐喝イベントに参加しましょうそうしましょう」
「ま、まて!」
 遮ろうにも、ローファルにがっちりと腕をつかまれている。悔しいが、力は彼のが強い。
「あなた、女性に『悪戯か褒美か』と尋ねて悪戯するの、好きでしょう?」
 …嫌いではない。
「だったらいいじゃないですか、あなたの仮装も用意してます。ホラ」
 刹那。


「モルボルなんて嫌だぁぁぁあぁ!!!!」





「とりっくおあとりーと」