遠く、潮騒のようにいのちが叫ぶ。
 その声を聞きながら、しばしまどろむ。最近はこちらに手が届くほど大きな悪意がやってきていない。この前、かつての仲間たちがそれを打ち破った反動だろう。時の狭間が消え、新しい季節がやってきたはずだ。それぞれが新たな道を踏み出したはずだが、案外一緒に花見でもしてるかもしれない。しばらくは、平穏が続けばいい。向こうもこちらも。
 ねぇ、アキラ。
 ふと、妙に反響した声が自分を呼んだ。誰かは分かりきってる。今自分の背後にある扉の向こう、はたまた自分の魂の内側。あるいは両方。そこから声は響いてる。
「なんだ?」
 よかったのかい? 君に意識はあるんだってこと、彼らに教えなくて。
「結論から言うなら、これで良い」
 でも君は、その気になればこの扉の前から歩き去れる。もっと温かで、平穏で、ある種怠惰な場所にいける。そうすれば、やがてそこで彼らに会えるだろう。
「それじゃ意味がない」
 滅びは誰にだって訪れるよ。特別なことじゃない。哀しいだけのことじゃない。
「自分はここでいい。これが自分の『命のこたえ』だ」
 だけど、君は……。
「どうしたんだ、綾時。やけに突っかかるじゃないか」
 だって、だってさ。……理解はしてるんだ。君の選んだことだから。君が守るって決めたから。僕はもう完全な綾時とはいえないかもしれないけど、それでも尚僕を綾時と呼んでくれるように。でも納得はできない。僕にはやっぱり、あの生きてる瞬間の輝かしさが何より眩しく思える。それが君から失われてしまったことに、僕はとても……。
 ……彼らは忘れたわけじゃない。分かってる。ただ前を向いただけ。君のことを忘れたわけじゃない。
「うん」
 でも僕は、淋しいと思うのを止められない。僕という存在が消えると分かったときよりも、ずっと。
「ありがとう」
 そっとそう答えると、続く声はかき消されてしまったようだ。かき消したのは己かもしれないが、綾時の優しさかもしれない。少し話しておこう。そう思った。この孤独を慰めてくれるのは、綾時だ。扉の向こうに封印し、自分の内側に迎え入れた彼。そしてまた、彼の孤独に触れられるのは自分だけだろう。
「彼らがここにやってきたとき、やっぱり心は揺れた。命の声に耳をすませて、命の海に目をこらして、扉に挑む彼らを見守って。どれだけ苦しめたかを知って。この姿を見られたときは、心配だった」
 でも、と続ける。綾時は黙って聞いている。
「嬉しかったんだ。わけもなく。うまく説明できないけど」
 会えたのが?
「そうかもしれない。でもそれだけじゃない。きっと、『命のこたえ』を見つけたときみたいに。……だからいいんだ。僕は胸を張ってここにいられる」
 ……そっか。
「それに、綾時もいるしね」
 うん。僕はずっと君と一緒にいるよ。
「はは、ありがとう」
 それに、えっと、なんだっけ、青い服の彼女も君を探してる。
「えっ」
 きっとそう遠くない未来に、ここにやってくるよ。君を助けようとしてる。きっと楽しくなる。
「分かるのか」
 うん、分かる。なんとなく感じる。君もいくらかこちら側の感覚に慣れたとはいえ、これに関しては僕のほうが先輩だからね。
「じゃあ先輩を信じるよ」
 うん、任せてよ。それにしても青い服の彼女、とっても強そうだね。
「うん、強い。やばい」
 え、そんなに? まぁそんだけ強かったら、不届きにも僕に触れようとする輩をさくっと片付けてくれそうだよね。君は楽できるって寸法だ。
「そうかなぁ」
 そうだよ。ついでに短時間だけでも動く練習とかしてみれば? そうすれば今みたく暇を持て余すことなんてなくなるよ。封印さえしっかりしてれば、石みたいなものであり続ける必要はないんだし。
「それはいいかも」
 うんうん。そうしたらさ、あっちむいてホイとかやって遊ぼう。あ、でも彼女も入れると三人になるから複数でできる遊びのがいいね。アイギスとか来れそうだから、来てくれたらビーチバレーができるんだけど。
「綾時、ここにビーチはない」





「扉越しに彼と」