あ、こいつ睫毛なげぇ。
 左斜め前かつ上方に位置する端正な顔を観察していて、今さらとばかりに気がついた。手元の小説を走る目線は、男にしてはきめ細かい肌に落ちる影を揺らめかせている。
 思わず手を伸ばして、その黒髪を指にからめとった。
「んー?」
 返ってきたのは、言葉にすらなってない問いかけ。俺は仰向けの体勢のまま、続けて相棒の髪の毛を弄んだ。戦闘においては別人のような様相さえ漂わせるというのに、目の前の男は無防備にただ俺の暴挙を許す。
 俺も意味があってしたわけじゃない。言葉にならない答えを俺も返す。「うーん」くしゃくしゃと、意味もなく指を動かす。
 相棒は動かない。拒絶することも、その片鱗さえ見せない。
 だから俺は意地になるんだってことを、目の前のこいつは分かってるんだか分かってないんだか。
 こんな他愛ない触れ合いを当たり前のように受け入れてくれるのが嬉しい反面、俺は不安になるんだって。そう言えたら楽だろうけど、俺は言わないし、こいつも気付かない。
 だから俺はまた髪の毛をくるくると指にまきつけてみる。
「んー……花村?」
 くしゃ、と。
 こいつ自身、他意もなくやってるんだろうなと呆れる。伸ばされた手の着地点は、俺の前髪付近。まるであやすように、くしゃりとやられた。視線は相変わらず活字にそそがれてる。でもきっと今の俺はちょっと都合の悪い顔色をしてるだろうから、大いに安心する。
「うーん」
 俺はまた声を出した。さっきとは少しトーンが違う。自覚できちゃうあたり重症だ。
 さて、と俺は考える。
 このまま起き上がって相棒に背中を預けてみようか。それとも腰のあたりにタックルでもしてみようか。ひらりとかわされるかもしれない。でもそれならそれで、俺を見るように仕向けてやろう。たとえ最後には俺が降伏することになっても。
 こいつの視線が活字に独占されるなんて、そんな不条理は吹き飛ばしてやれってんだ。





「だらだら」