ある日、ラボに調整に出かけていたアイギスが男性型になって戻ってきた。
「……えーと」
「あ、アイギス……?」
「はい」
「ほんとにアイギス?」
 いち早く自失から立ち直ったゆかりが恐る恐るといった体で問いかけた。その目の前にいるアイギスは、前よりも全体的に鋭さを増して引き締まった体型をしていた。元々機械だから柔らかさも何もないが、女性らしい丸みを感じさせるような部分は排除されている。心なしか、身長もおまけされているようだ。顔の造形も細かいところが変わっていて、ラボの職員の才能と労力がうかがい知れる。
「はい、アイギスです」
「いやあの、胸の膨らみとかどうしちゃったのかなーって」
 順平が妙にそわそわしながら聞いた。傍目から見てもしょんぼり侍だった。
「除去したであります」
「ノー!!」
「順平うるさい!」
「美鶴、これはどういうことだ」
 真田が背後の美鶴を振り返ると、我らが会長は肩をすくめた。その視線の揺らぎから、彼女も幾分戸惑っているらしいのは伝わった。
「どうもこうも、アイギスたっての希望だ」
「はい、私がお願いしました」
 ご丁寧に、無駄にいい声である。
「かーっ! なんだよそれ! 性転換手術ばっちりてか! ありかよそれー!!」
「男性型だと何か問題があるのでしょうか。戦闘能力には変化ありません。むしろパワー面で向上いたしました」
「いや、問題つーかさ……つーかさぁ…」
 貴重な女の子成分が、などとのたまう順平を無視して、アイギスは琴音に向き直った。
「男性型ではあなたの側にはいられませんか?」
「……いや、いいんじゃない。外見は違ってもアイギスだし」
「はい。ありがとうございます」
 そう言ってアイギスは頭を下げる。おかしい。妙に眩しくて気恥ずかしい。
「私の一番の大切はあなたの傍にいることであります」
「その顔と声で言うなー!!」
 順平の叫び、甚だ同感である。


   * * *


「それにしても、随分あっさり男性型になったよなー」
 色んな衝撃が過ぎ去ったあとは、ラウンジにていつもどおりの夜を過ごすことになった。アイギスは琴音の隣にしっかりと座っている。
「私の一番の大切は……」
「わかったわかった、それはわかった。でも琴音と一緒にいるためになんで男性型になる必要があるんだよ?」
 順平がコーラをがぶ飲みしながら問う。飲まないとやってられない、とは言っていないが分かりやすい。
「悪い虫がつかないためであります」
「そんな理由!?」
「学校に通う許可も既にもらっているであります」
「まじで!? いいんすか、美鶴先輩!」
「そうですよ、大丈夫なんですか?」
 目を剥く順平と、アイギスに果たして学校生活が送れるかどうか甚だ疑問らしいゆかりが声をあげる。曰く、理事長があっさりオッケーしてしまったらしい。
「なに考えてんだあのおっさん……」
「ほんと大丈夫かなぁ」
「至らない部分は随時修正していくであります。今現時点で私に修正すべき点はありますでしょうか」
 アイギスの純粋な問いかけに、仲間たちは各々唸りをあげる。どこがどうと具体的に指定できて、なおかつそれが即時修正されるなら何も問題はない。
 あ、と順平が小さく声をあげる。
「アイギスの経歴ってさーどうすんの? 外人設定?」
「まぁ見た目も名前もあれだしね」
「男性型になりきれていないでありますか?」
 琴音を見下ろすようにしてアイギスが問いかける。もっとよく確かめろとでもいうのか、心なしか距離が近い。心臓に悪い。
「ううん、立派な男に見えるよ」
「それでは名前でありますか。……では、名前をアイギスの英語読みのイージスにするであります」
「なんか変わったのそれ!?」
「ラボでそのような仮称で呼ばれていました。かたい感じがするとのことで、より男性らしく響くと言われたであります」
「いや、そういう問題じゃ……」
 小さく脱力するゆかりを尻目に、アイギスもといイージスは立ち上がり、一同に向けて頭を下げた。
「対シャドウ非常制圧兵装のラストナンバー、アイギス改めイージスであります。よろしくお願いするであります」
 ラウンジが抑えきれない溜め息で満たされたのはいうまでもない。





「イージス」