喉元過ぎれば

 毎日毎日、墓地へと足を運ぶ。
 退団して十数年が経ち、妻はつい先日息を引き取った。彼女が埋葬されてから、飽きもせず足しげく通うのは騎士団墓地。
 子供たちも使用人も、クロイツが土に眠る彼女に会いに行っているのだと信じて疑わない。その様に涙しながらも、美しい愛などと知った口をきく。だがそうではないことを彼は知っている。彼だけが知っている。
 墓の下に彼女はいない。
 いや、もはや世界のどこにも彼女は存在しないのだ。
 ただその純然たる事実を、彼女の不在という真実を。己に突きつけるために毎日ここへ来る。重い足を引きずって、死の静寂に身を投じる。
 やがて己もそこに加わると知っているからこそ、恐怖など感じない。
 ああそうだ、もうこの心のどこにも怯えた色などありはしない。耐えがたい恐怖に潰されそうな夜もない。
 なぜなら彼女は、己の中にいるのだから。
 もう決して、どうしようもない隔たりに絶望することなどないのだから。
 今はただ待ち遠しい。
 彼女と同じように眠りにつく日が、ただ待ち遠しい。

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